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富山家庭裁判所 昭和39年(家)350号 審判 1967年1月27日

申立人 水野礼子(仮名)

相手方 竹田ヤスエ(仮名)

主文

一、申立人水野礼子は、別紙第一目録記載の宅地を取得する。

一、相手方竹田ヤスエは、別紙第二目録記載の建物及び別紙第三目録記載の動産並に電話加入権を取得する。

一、相手方は、申立人に対し、昭和四二年一月より申立人の取得した上記宅地を建物所有の目的を以て使用する間、地代として一ヶ月金七、八〇〇円を毎月末日限り支払うこと。

一、前記賃貸借の期間を昭和四二年一月一日より二二ヶ年間と定める。

一、相手方は申立人に対し、上記地代とは別に金二〇〇、四〇一円を昭和四二年三月末日限り支払うこと。

一、審判費用は、これを三分し、その二を申立人、その一を相手方の各負担とする。

理由

申立人は、その父竹田岩雄が昭和三八年一〇月三一日死亡し、同人の遺産について相続が開始し、申立人並に相手方は亡竹田岩雄の相続人となつたところ、前記両者間において遺産分割の協議をしたが、協議が整わないため、昭和三九年六月五日遺産分割審判の申立をなした。よつて当裁判所は職権で調停に付し、調停委員会において調停を進めたが、当事者間に合意成立の見込がないので、証拠調をなした上、次のとおり認定判断した。

第一、相続人について

被相続人竹田岩雄には、先妻のぶとの間に生れた長女である申立人水野礼子と、被相続人の死亡当時の妻であつた相手方竹田ヤスエの二名で他に相続人は居らない。

第二、相続分について

被相続人の遺産を相続すべき者は、当事者双方の二名で、その割合は被相続人の子である申立人は三分の二、妻である相手方は三分の一ということになる。

第三、相続財産

被相続人竹田岩雄の遺産は、別紙第一目録記載の宅地、第二目録記載の建物及び該建物内にある第三目録記載の動産(電話加入権を含む)で、これ等の物件は別紙目録記載のように、一筆の宅地と、その地上に存在する木造瓦葺平家建居宅一棟(但し、現況は別紙目録のとおり)と、この宅地建物内にある別紙目録記載の動産であつて、この建物には現在相手方が住居し、且つ動産類も日常生活に使用して居り、これ等の物件が動産分割の対象となる物件である。

第四、分割方法

上記遺産の主なるものは、一筆の宅地と、この地上に存在する一棟の居宅とこの居宅に付属する物置一棟で、この遺産を分割するとなれば、これ等の物件を相続人のうちの何びとかの単独所有となし、この物件の評価額を、上記比率に按分して、単独所有者となつた者から他の相続人へ相続分に相当する金額を支払わせることとすれば申分がないのであるが、上記建物には現在相手方が、その母親と共に居住し、○○火災保険の代理店を営んで居るので、相手方において、上記宅地、建物を取得することにして、相手方より申立人に対して申立人の相続分に応じた代償金を支払わしむることとすれば、最も好都合であるが、相手方審問の結果によると、相手方にはその資力がなく、到底斯ることの実現が不可能なことが認められる。一方申立人の方はどうかというと、現在住宅に困つている訳ではなく、上記宅地、建物を取得するとなれば、相手方において早晩立退くことを前提としない限り申立人に取得させることも至難なことといわなければならない。それかといつて宅地を二対一に、又建物も同様二対一に現物で分割することも一筆の土地、一棟の建物とこれに付属する一棟の物置である現状からみて事実上不可能であるので、結局当事者の一方に宅地、他の一方に建物というようにそれぞれ取得させて、建物所有を目的とする賃借権を設定させる以外に他に適当な方法がない。そこで二対一の割合で分割するとなれば、結局価額の大きい宅地を申立人に取得せしめ、宅地より価額の小さい建物を相手方に取得せしめることも止むを得ないことといわねばならない。ところで本件建物のような木造瓦葺二階建の家屋に対する賃貸借期間は二五ヶ年間程度であるから、賃貸借期間を二五ヶ年として二五ヶ年間の建物所有を目的とする賃貸権の設定しある本件宅地の価額と、同じく該地上に存在する本件建物の価額並に一ヶ月の地代を鑑定人細井敏之に命じて鑑定せしめたところ、宅地の評価額は金一五三五、二〇〇円、建物の評価額は金四九〇、〇〇〇円で、地代の相当額は一ヶ月金七、八四一円なる鑑定結果を得た。又別に別紙第三目録記載の動産(電話加入権を含む)の評価額が金二一八、七〇〇円なる鑑定結果を得た。この動産類は現在相手方において上記建物と共に日常生活に使用しているので、申立人に宅地を、相手方に建物と同建物内にある上記動産を取得せしむることは当然の帰決といわなければならない。そうだとすれば

申立人の取得する物件の価額は金一五三五、二〇〇円

相手方の取得する物件の価額は 金七〇八、七〇〇円

となり、大体二対一の割合に程近いものとなる。

ところで、相手方は亡竹田岩雄の死亡した当時より昭和四一年一二月まで三八ヶ月間地代を支払うことなく宅地を使用していることとなるので、この利得額を計算すれば、金二九七、九五八円となるが、相手方の取得する物件の上記価額が申立人の取得する物件の価額の半額となるためには、なお金五八、九〇〇円が追加されねばならないので、上記利得額から、この金五八、九〇〇円を控除し、更に上記建物には、住宅金融公庫より借入れた負債が残存して居り、この負債は結局相手方において支払わねばならないこととなるので、この負債額三八、六五七円を更に控除すれば、その残額は金二〇〇、四〇一円となり、この残額は相手方において、上記宅地使用によつて利得したこととなるので、この金額を相手方より申立人に支払わしめることとし、その支払期限を直にということも調達の都合もあるであろうから、約二ヶ月後の昭和四二年三月末日限り支払わしめることとする。又賃貸借期間を二五ヶ年とすれば、四一年一二月末まで既に三年二ヶ月を経過しているので、三年を経過したものとして今後の期間を計算すれば、あと二二ヶ年となるので、賃貸借期間を昭和四二年一月一日より二二ヶ年と定め、又地代は鑑定の結果によると一ヶ月金七、八四一円という鑑定がなされているが、今後の計算の都合上一〇〇円以下を切捨て一ヶ月金七、八〇〇円と定め、昭和四二年一月より上記宅地を使用している間相手方より申立人に対し、毎月々末限りこれを支払わしめることとする。なお今後地代の増減、借地期間の更新などについては、すべて借地法の定めるところに従つて解決することとして上記のような分割方法をなした。

第五、審判費用の負担について

以上のとおり、申立人に対し三分の二、相手方に対し三分の一の割合で遺産の分割をなしたから、審判費用についても、この比率に従うのが最も妥当と考えられるので、審判費用はこれを三分して、その二を申立人、その一を相手方をして各負担させることとする。

よつて、主文のとおり審判した次第である。

(家事審判官 神野栄一)

(別紙目録省略)

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